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フィルマンはまだ20歳。
この前、高校を出たばかりで
意識としてはまだまだお子ちゃまだ。
でも運命はそのままでいることを許さない。

農園の技能実習生は
帰国後のビジョンを明確にする必要がある。
その明確になっていくビジョンに向けて
さまざまな学習と投資を行っていくことが
ここに来た者への課題だ。
だから、月間レポートの指導は
いつも以上に熱が入る。

フィルマンは、その家計調査を通じて
彼のおかれている立場を自分でも
理解した。
と思いたいが、課題として出された調査を行っても
それをどのように認識しているのかは
こちらからは見えにくい。
彼が話好きならば、それを通じてどう思ったのかを
自然と話してくれるのだろうけど
はにかみ屋の彼はいつも微笑むばかり。
いろいろ考えているのだろうけど
言語化してはくれない。
こういう子は、経験から言えば手がかかる。

さて、そのフィルマン。
来日して結核が発覚して少ししてから
こういうことを言うようになっていた。
「お父さんが家を新築していて、その2階部分を僕の家にしてくれるっていうんです。だからその建設費の50万円を送金するんです」と。
彼の父は、大工さんなので
材料費だけを出せば、その分を建ててくれるのだとか。
そしてその大好きな父は
新しいお父さん。
前のお父さんが不慮の事故(毒蛇にかまれて死亡)で亡くなり
兄弟を抱えて路頭に迷う一家は
母の遠方への出稼ぎで
何とか生計を立てていた。
そこで知り合った新しいお父さん。
その人と母が結婚することで
再び家族が一緒に暮らせるようになる。
だからなのか
フィルマンはそのお父さんがとても好きだ。
なんでもそのお父さんに相談をするし
とてもよく連絡を取り合っている感じ。

タンジュンサリ農業高校に派遣中の
立崎があちらの先生から聞いた話だが、
フィルマンが実習生として日本に行くのは
家族みんながすごく反対したのだとか。
多くを語らない彼は
どんな反対があったのかを教えてはくれないが
たぶんそんな事情が背景にあるのだろう。

だから、彼の肩越しに見える彼の家族は
とても結束力がある。

それはいいことなのだが。
だが、弊害もある。
それはフィルマンがお父さんの言うすべてを
丸呑みしてしまうことである。

家は、お金を生み出さない。
家へ投資は、住む場所としての拠点づくりにはなるし
時として重要でもあるが
すでにその場所に家を構え、
新しくしたいという欲求と
日本に行っただけで成功と思われる文脈で
建ちあがる新築の家は
僕はほとんどその意味がないと思っている。
だからこれまでも実習生には、
土地や生産体制にお金をかけろ、新築の家は最後に、
と口を酸っぱくして言い続けている。
それでも帰国してすぐに家を建てる人は
いるんだけどね。

フィルマンのお父さんの計画はこうだ。
フィルマンが日本に行くので、家を新しくして
1階を自分たちの家、で2階部分をフィルマンの家にして
2階部分の材料費はフィルマンの日本での
稼ぎを当てればいい、で、
帰国までの間は空き家にしておくのはもったいないので
賃貸で他人に貸せば、一石二鳥だ、というもの。
家を建てて賃貸に充てることは
投資としてはありだとは思う。
人口が増加していて、フィルマンの故郷は
どんどん町が広がっているというし
ちかくに大きな工場地帯もあり
そこへ通う労働者家族も多く住む地域らしく
その情報が本当なら
賃貸は悪くはない。

だとしたら、賃貸がビジネスとして成り立っているのかどうか
これを計算しないといけない。
だからフィルマンは
ここ数カ月は、月間レポートでは
この計算に時間を費やした。

家を今から建てるとして
早くても来年に完成し、来年中に借り手が見つかれば
早い方だろう。
お父さんの設計構想では、部屋は多くても3つ取れるかどうか。
他の実習生たちはその広さだと2つが限界という声もあったが
おまけで3つ取れることにして計算。
帰国まで1年くらい残して
その部屋を借りる人が現れたとして
1部屋1カ月の家賃が、350,000~400,000ルピア。
その地域の賃貸データからその線が妥当となった。
1年で得る収入は、14,400,000ルピア。
50万円はルピアに換算すると6800万ルピア。
4年と9カ月貸し続けてようやく元が取れる計算だ。
帰国して3年9カ月は彼は別の場所に住まないといけないし
リフォームも必要になってくるだろうから
普通住宅の広さの2階部分だけを貸すというのでは
部屋数が少なすぎてまったく投資に見合わないことが
よく解った。
また
実習生として貯金できる金額の1/3ほどの
お金を投資してしまえば、他の事業の投資額が小さくなり
分散する分、効率は悪くなることも予想される。

これらの計算を
フィルマンはお父さんにも伝え
かなり話し合ったようだ。
結論として
彼は新築計画を一旦白紙に戻すことに決めた。
日本に行けば、大金が手にできる。
たぶんそれはそうだろう。

今3年生のデデが日本での貯金を
インドネシアに居ながらして貯めようと思うと
どれくらいかかるかを
かつて試算したことがあった。
彼のように農業資源の豊かな地域の場合だが
少なくとも8年間贅沢を避け貯金し続ければ
可能だろうという試算だった。

それが3年の間に親に仕送りもしつつ
贅沢はしないものの自分たちの
欲しいスマホやパソコンなどの電化製品も買いつつ
尚且つ、8年分の貯金も出来てしまう。
となれば、大金というイメージもあるだろう。
だが、事業投資としてはとても小さく
それだけ貯めても全く大きな事業を営めないのが
実習生たちがずーっとぶつかっている現実なのだ。
インドネシアの銀行がもっと農業分野にも
資金を貸し付けてくれれば(低金利でね)、
良いんだろうけど
そういう貸し付けはあまり見当たらない。
だから自己資金になるのだけど
それだけだとどうしても資金が小さい。

フィルマンはその資金の小ささを
どこまで理解したのかは不明だが、
自ら父を説得し
新築への投資分散を回避した。
ただ、その発表をする彼は
とてもさみしそうだったし、
小さなフィルマンが
もっと小さく見えた。



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
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